
JEPXは国内で唯一の卸電力取引所として2003年に設立された。
電力事業の歴史を振り返ってみると、自由化前の電力の市場は、大手電力会社が各地域の電力需要を担い、発電した電力を需要家に届けるというシンプルな仕組みだった。
ところが1995年から段階的に進められてきた電力自由化により、電力事業が「発電」「送電」「小売」の3事業に分離される。自社電源を持たない小売電気事業者でも他者から電力を購入することで需要家に電力を売ることができるようになった。こうした電力の取引を行う場がJEPXだ。発電事業者と小売電気事業者の間に立ち仲介役を担う。ここでの取引に参加するにはJEPXの会員になる必要があり、2023年2月時点で282社が登録している。
JEPXでは、「スポット市場」「時間前市場」など複数の市場を開設しており、市場の活性化とともにその数や、取り扱われる電力の価値も多様化している。
主な市場と取引される価値(商品)
この表は横スクロールしてご覧いただけます
取引される価値(商品) | 実際に発電された電気(kWh) | 非化石電源で発電された電気に付随する環境価値 | 短時間で需給調整できる能力(ΔkW) | 発電することができる能力(kW) |
---|---|---|---|---|
スポット市場※ | 〇 | |||
時間前市場※ | 〇 | |||
先渡市場※ | 〇 | |||
非化石価値取引市場※ | 〇 | |||
ベースロード市場※ | 〇 | |||
需給調整市場 | 〇 | |||
容量市場 | 〇 |
市場での取引価格は電力需給を取り巻くさまざまな要因が影響し、休むことなく値動きする。供給面では発電所の停止や不調による供給力不足、気象条件に左右される再生可能エネルギー(再エネ)の発電量の増減などがその要因になる。また需要面では急激な気温変化による需要増が目立つ要因だ。取引価格の上下はそうした需給バランスの」変化によることが多いが、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻など国際情勢に起因する燃料価格の高騰も大きな要因になる。
需要家に供給する電力の確保にはJEPXでの取引のほか、発電事業者と小売電気事業者があらかじめ年間の購入量と価格を決めて取引する相対契約などもある。そうした中でJEPXでの取引シェアは2016年には2%程度であったが、2021年8月時点では43.7%となり、大きな広がりを見せている。
現在、再エネの主力電源化などを背景に、各種発電設備の数も増え、電力の取引はさらに複雑化している。次回からは、4年後の未来の発電能力を取引する「容量市場」や、電力供給の安定性を維持するために必要な調整力を取引する「需給調整市場」など新たに開設された市場も含め、各種市場の概要や役割、課題などを見ていく。
※本記事は、環境市場新聞第72号(2023年4月3日発行)に掲載された記事です。